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zoom RSS レオナルド・ダ・ビンチ「岩窟の聖母」の謎:同じ絵が2枚あるのはなぜ、その違いは?

<<   作成日時 : 2014/12/11 19:16   >>

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少し前に、レオナルド・ダ・ビンチの「岩窟の聖母」について記事の中に書いたことがあります。この絵はパリのルーブル美術館とロンドンのナショナル・ギャラリーと2枚の類似の構図の絵があります。類似の絵が何枚かあるのは他にもありますが、この絵は謎に満ちています。数年前には小説と映画で「ダ・ビンチ・コード」が大ヒットしましたが、その中でも「巌窟の聖母」が謎の暗号の一つとなっていました。岩窟の聖母は謎の多い、ミステリーじみた絵です。今回はこの絵に関連する謎めいたことを書いてみました。

★レオナルド・ダ・ビンチ「岩窟の聖母」(Virgin of the Rocks)の二枚の絵の謎

ダ・ビンチの「岩窟の聖母」はパリのルーブル美術館と、ロンドンのナショナル・ギャラリーに同じような構図の絵が二枚有り、謎の多い絵といわれます。まずその二枚の絵を見てみましょう。

ルーブル美術館(パリ)の「岩窟の聖母」、制作:1483年 - 1486年、199 cm × 122 cm

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ナショナル・ギャラリー(ロンドン)の「岩窟の聖母」、制作:1495年 - 1508年、189.5 cm × 120 cm

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●「岩窟の聖母」はなぜ二枚あるのか?

ダ・ビンチは30歳の時、フィレンツエからミラノへ移って、フランシスコ会系の「聖母無原罪の御宿り信心会」教会から、ミラノのサン・フランチェスコ・ グランデ聖堂の祭壇画聖堂の祭壇絵の依頼を受けました。それが一枚目の「岩窟の聖母」です。この絵は、イエスが生まれたあと、ヘロデ王による2歳以下の嬰児を虐殺する命令から逃れるべく、エジプトへの逃げる途中、砂漠の洞窟に身を隠したマリアと幼子イエスが、ヨハネの守護天使である大天使ウリエルに守られた幼い洗礼者ヨハネに出会う場面を描いたものです。しかし教会は全体に暗い、神々しさがない、イエスとヨハネの描き方が通常ではないとしてこの絵の支払いをしなかったのです。この絵は、後にルーブル版になったものです。

このルーブル版「岩窟の聖母」は、注文主の信徒会が受取、支払い拒否をしたために、代金の支払いを巡って長期的に支払金を巡る訴訟が続きました。ようやく代金の支払いがされ、この一枚目の作品は結局、それを仲裁したフランス王ルイ12世に献上され、現在、パリのルーヴル美術館に所蔵されています。そして依頼主へは結局、最初の絵を描き直しをすることになり、現在のロンドン、ナショナル・ギャラリー版の方が教会へ納められました。18世紀後半に、教会がこの2作目の作品を売りに出し、スコットランド人画家が購入して、さらに、複数の収集家の手を経て、1880年にナショナル・ギャラリーがこの絵を購入しました。ロンドン版にはダ・ビンチの弟子が描いたところがあると考えられていましたが、ナショナル・ギャラリーが実施した修復作業の結果、ほとんどの部分はダ・ビンチの手によるものであると発表しました。

●「岩窟の聖母」:二つの絵の違い

では二つの絵はどんな違いがあるのでしょうか? 並べて見ましたので、比較してみてください。

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ここではナショナル・ギャラリー版(以下ロンドン版と表記)から見た場合、ルーブル版(パリ版)との違いを挙げてみました。

ロンドン版(ナショナル・ギャラリー版)の向かって(鑑賞者から見て)左の幼子は、十字の杖をもち、皮の服を着ていますので、これは洗礼者ヨハネで、右側の幼子がイエスです。

パリ版(ルーブル版)では絵の中のポーズから、向かって右の指を挙げている幼子がヨハネで、左側の幼子がイエスです。パリ版天使ウリエル(ガブリエル)の手前の幼子(洗礼者ヨハネ)は、水の側にいて、左の幼子(イエス)に洗礼を与え、そして、イエスは手を組み洗礼を受けているのです。パリ版では天使ウリエルは、洗礼者ヨハネに、指差しでイエスが「主」であることを教えています。パリ版では、向かって右側の幼子の洗礼者ヨハネが2本の指をたて、左側のイエスがお願いするように両手を握っているのは、2人がヨルダン川で出会った時の様子(イエスが洗礼を受けた)を表現しています(注:聖書ではイエスが30歳ころヨルダン川でヨハネから洗礼を受けたことになっている)。このように2枚の絵では、イエスとヨハネは逆の位置になっています。

ロンドン版十字の杖と革の服ヨハネの象徴でヨハネと明確に分かります。十字の杖と皮の服は、後から描き足されたという説もあります。しかし、このロンドン版の絵の影響で、パリ版の絵の向かって左の幼子が、イエスと言われたのが、洗礼者ヨハネであり、右側の天使の側にいるのがイエスだとの逆の解釈も出てきました。どちらがイエスかはパリ版ではいろいろな解釈があり、はっきりしていません。

十字架を持ち、服をまとった幼子(ロンドン版)は洗礼者ヨハネです。

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パリ版では向かって左の幼子は十字架を持っていません(イエスという意見とヨハネだとする解釈がある)。

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ロンドン版は幼子イエスは指差ししていますが、天使の指差しはありません。天使の表情も微妙に違い、視線も内側向きです。また天使に羽がついているように見えます。パリのルーヴル美術館が最近見つけたことがあります。それはパリ版にのみ描かれている天使ウリエル右手の指差しですが、最新の調査よると、洗礼者ヨハネを指さしている手は、後から描かれたものだとのことです。したがって、ロンドン版と同様、パリ版では右手の指差しは描かれていなかったそうです。なぜ右手は描き足されたのでしょうか。それは当時ミラノ地方を傘下に治めたフランス王ルイ12世の好みと指示によるものらしいと言われています。

パリ版の天使と幼子:向かって右側の天使と幼子も指差しをしています。

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ロンドン版の天使:天使ウリエルはパリ版よりも自分自身を見つめている感じで、その服装もより軽やかです。

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ロンドン版は手前の池(水)がなくなっています。

ロンドン版パリ版になかった光輪が聖母子とヨハネ3人に付けられています。

◆両方の絵の中の植物が違っています。

◆背景が微妙に違い、マリア、天使のマントの色が違います。

パリ版の穏やかな感じに対して、ロンドン版は全体的に表現の硬さが感じられます。 

パリ版には、空気遠近法による背景や、人物の深い陰影、ゆったりとした感じの巌の表現、水気を帯びたような洞穴の様子がうかがえます。ロンドン版では、岩の表現は平板で奥行に欠け、遠景は奥行きがあまり感じられなく、洞窟の空気にも湿気がないようで、人物の肌の質感かたい感じです。

◆全般的に見ると、パリ版(ルーヴル版)は、人物や姿の描写は繊細で、スフマート技法といわれる描写により、微妙にぼやけた表現です。色使いは穏やかで温かみがあります。やはりパリのルーブル版はダ・ビンチ本人によるもので、ロンドンのナショナル・ギャラリー版は、やむなく書き直しさせられたもので、ダ・ビンチ+弟子によるものではないかとの解釈があります(ナショナル・ギャラリーの発表では、ほとんどがダ・ビンチの手によるものとしている)。

パリ版の聖母:微妙で美しいぼかしによる光彩の技法が、聖母マリアの表情をより甘美的で、不安気な感じに表現しています。


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ロンドン版の聖母:パリ版よりはっきりしていて、ぼかしがない。

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パリ版は、主導したダ・ビンチが聖母マリアの頭上に通常の光輪を描かず、幼いイエスが低い位置に座り、天使ウリエルと共にヨハネを指差しています。これが教会では受け入れられないとした理由の一つですロンドン版マリアの光輪が描かれ、衣の青と背景の青が鮮明で、ヨハネはパリ版にはない十字架を抱え、天使ウリエルヨハネを指差さず穏やかな表情になっています。

以上が主な違いですが、この絵にはまだまだ違う解釈、意見、謎があります。みなさんなりの解釈で楽しんだらいかがでしょうか?

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追記:この記事の続編があります。

ダ・ビンチの「岩窟の聖母」には3枚目があった!/もう一つの「モナ・リザ」があった!?
http://jack8.at.webry.info/201501/article_1.html

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私は謎やミステリーが好きで、今回はダ・ビンチの2枚の「岩窟の聖母」について追求し分かった範囲で書いてみました。専門家でもない私が、こんなことを書くのはおこがましいのですが、私なりのミステリーの追求と楽しみです。まだ書きたらないことがあり、また続編でも書いてみようかなと思っています。ダ・ビンチは幼年から青年期まで苦労したようで、イタリアから晩年はフランスに移っています。その時お気に入りの絵を持参したのですが、その中に「モナリザ」や特別な思い入れがあったヨハネの絵があり、それが現在ルーブル美術館に所蔵されています。ダ・ビンチって、何か天才で裕福のイメージがあったのですが、意外と苦労人であり、裏の人生もあったようです。

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コメント(5件)

内 容 ニックネーム/日時
すごいJackさん、細かい解説と数枚の写真で実際目の前で見比べているような気分になりました。二つの絵画をロンドンと、パリで見たことがありますが、実際目の前で見比べれなかったですが、色調の違いには気づきました。でもなぜ同じような絵を二枚も書いたのか長い間、不明だったので、今解明されてすごくうれしいです。今度またパリとロンドンに行くときこの説明を覚えていてしっかりと見てきたいです。何と言っても、イエスとヨハネが二つの絵画の中で位置が反対だったとは衝撃的でした。いろいろ調べて推理してくださり有難うございました、すごく面白かったです。
Anne
2014/12/12 21:45
Anneさん
この絵は以前より謎が多く、引っかかっていました。絵の謎を追求してゆくと、次から次へと新しい解釈、事実が出てきて、際限がなく、どこかでまとめないと、との思いから、今の段階でのわかったことで、私なりの解釈で書いてみました。知り得たことはこの数倍有り、違う観点からまた書こうと思います。

ダ・ビンチ自身も謎が多く、多彩な才能があり、絵だけでは説明しきれません。またキリスト教の知識、それらを絵で表す上での慣習見たいなものもあり、なかなか面倒ですが、これらは宗教絵を見る上で今後役立つことでしょう。
一つの絵にはたいてい各人の思いと、物語のようなものが有り、それらを知ってみると、また絵を鑑賞する感じが違ってきますね。

イエスとヨハネが逆の意見についてももう少し書きたかったのですが、それはまたの機会にします。
Jack
2014/12/13 18:59
たいへん興味深く拝見しております。私も素人ですのでよく理解できないところがあり、申し訳ありませんが、下記2点について教えて頂けないでしょうか。

1. 「このルーブル版「岩窟の聖母」は、注文主の信徒会が受取、支払い拒否をしたために、代金の支払いを巡って長期的に支払金を巡る訴訟が続きました。」
  「しかし教会は全体に暗い、神々しさがない、イエスとヨハネの描き方が通常ではないとしてこの絵の支払いをしなかったのです。この絵は、後にルーブル版になったものです。」

このトラブルは信徒会が800リラ、レオナルド側が1200リラと言う料金をめぐる訴訟で、レオナルド側が信徒会への絵の引き渡しを拒否していたという斎藤泰弘氏の論文を読んだことがあります。
教会・信徒会側が受け取りを拒否したということですが、どのような根拠に基づいておっしゃっているのか教えてください。

また、ほとんど同じ絵を一方は“全体に暗い、神々しさがない、イエスとヨハネの描き方が通常ではない”と言う理由で受け取りを拒否し、一方は受け取ったということは理屈に合わないのではありませんか。

つまり、“全体に暗い、神々しさがない、イエスとヨハネの描き方が通常ではない”と言うことを教会・信徒会側は言っていないと思うのですが、それを教会・信徒会側が拒否の理由にしたという根拠についても教えてください。


2. 「この一枚目の作品は結局、それを仲裁したフランス王ルイ12世に献上され、現在、パリのルーヴル美術館に所蔵されています。」

ルーブル版がルイ12世に献上されたということですが、これについてもどのような根拠に基づいておっしゃっているのかお教えください。


以上でございます。よろしくお願い致します。
tanto
2015/04/16 14:55
「パリ版は、主導したダ・ビンチが聖母マリアの頭上に通常の光輪を描かず、幼いイエスが低い位置に座り、天使ウリエルと共にヨハネを指差しています。これが教会では受け入れられないとした理由の一つです」とのことですが、それはどなたの説なのでしょうか?

マリアの左手は「青銅の蛇」を意味しイエスの象徴として描かれていると私は考えています。
つまり、ルーヴル版もロンドン版もマリアの左手の下に位置している幼子がイエスで、マリアの右横に位置している幼子が洗礼者イエスと言うことです。

これまで「青銅の蛇」について言及した人はいないようですが、このどちらがヨハネでどちらがイエスかについては、美術史家の間ではほぼ決着がついているように見えますがいかがでしょうか。
tanto
2015/04/16 15:10
tantoさん
コメントありがとうございます。

この記事はミステリー好きなものが、また専門でもないものが、たまたま美術関係で、今の状況で知り得たことをまとめて書いた私的なブログです。内容について根拠とか、出典とかについては、さまざまな情報からの私なりの個人判断による一つの解釈とストーリーであり、こんな感想もあるのだと思って頂きたいと思います。
したがって、質問にはお答えできかねます。どうしてもと言われるなら専門のページが沢山あり、そちらの方へ問い合わせ下さい。
このブログは、私が自由に書いているもので、専門の論戦のようなことはしていませんので、ご了解ください。
jack
2015/04/16 17:12

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